旅について

旅で最も楽しい瞬間は、目的地に向かっている途中に車窓を眺めることだと思っている。現実と照合する前の、旅への期待が最も輝いている時だからだ。旅は日頃の煩雑な生活から一時的に逃避するための手段であるのだが、車窓はそんな旅からも逃避できる先なのである。進行方向に対して真横の方角に開けた世界の果てこそが、本当の旅先なのである。
旅先でなくても窓はある。単調な暮らしの中でも、数限りない窓から無数の旅の気配を感じることがある。私たちはいつでも旅に出ることができる。